出演者の懸命な姿が伝える“善なるもの”に満ちた豊かな演奏~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第130回定期演奏会~

【PACファンレポート52兵庫芸術文化センター管弦楽団 第130回定期演奏会】

2月12日土曜の演奏会は、当初出演を予定していた指揮者とソリストが来日できなくなったため、指揮者が下野竜也、ソリストが川本嘉子に変更されて予定通りのプログラムを演奏した。コンサートマスターに四方恭子の姿。定期演奏会への登場は確か久しぶりだが、随分前に、「朝日ファミリー」で同僚がインタビューした記事の「演奏会では、奏者の一生懸命な姿を見てほしい」という言葉を思い出した。

最初の曲はユダヤ系ハンガリー人のジェルジュ・リゲティ(1923-2006)の「ルーマニア協奏曲」。プログラムには1951年に作曲されたとあり、昭和30年代生まれの私は親近感を覚えたが、初めて聞く曲だった。冒頭の弦の響きが美しく、うっとりさせられた。約15分の短い演奏だが、木管がリズミカルに踊り出すと、曲調が大胆に変化する。にぎやかな中に哀調も感じられ、ロマの民の奏でる音楽のようだった。

2022年2月の演奏会プログラム

ソリストの川本嘉子は日本を代表するヴィオラ奏者。深みのある青の衣装で登場し、ハンガリー最大の作曲家ベーラ・バルトーク(1881-1945)が晩年に書いた未完の曲を、弟子のシュルイが補筆した「ヴィオラ協奏曲」を演奏した。高度なテクニックが要求されるであろう曲を、見事な演奏で表情豊かに聴かせた。

約20分余りの熱演の後のアンコール曲は、カザルス「鳥の歌」。「ヴィオラ協奏曲」の終盤の舞曲風の熱を浴びたホールを、静寂で包んだ。

オーケストラの曲は、ラヴェル編曲のモデルト・ムソルグスキー(1839-1881)の組曲「展覧会の絵」。下野竜也は昨年1月の特別演奏会でもPACとこの曲を披露した。

耳になじんだ10編のメロディーを、総勢86人の大編成のオーケストラが、華麗かつダイナミックな音で届けてくる。その激しい音圧は、私には「悪霊退散!」(つまり、新型コロナウイルス退散!ですよね)の願いがこもっていたように聞こえた。

演奏後の拍手の中、下野はヴィオラの列の後ろにいる奏者を称えた。立ち上がったその人は、本日のソリスト、川本嘉子! ソリストが衣装を着替えてオーケストラに加わることは滅多にあることではない。ヴィオラのゲスト・トップ・プレイヤー、中島悦子も立ち上がって拍手していた。

プログラムのインタビューで川本は「若い方と弾くときは、まず自らが率先してやらなければ。(中略)若い感性は絶対に優れていますから、こちらが垣根を作らなければいろいろな刺激を受け、自分に足りないものを知ることができる」と語っていたが、よりよい音楽を純粋に希求する姿勢に深い感動を覚えた。

オーケストラのアンコール曲は、エルガー「エニグマ変奏曲」よりⅨ.ニムロッド。一転して祈りに満ちた調べに心が洗われた気がした。

そう、演奏会に足を運ぶと、人間が善なるものであることを信じることができる。コロナ禍で沈む気持ちも、世知辛い世の中も、ひと時忘れられるこの時間は、なにものにも代え難い。この日も豊かな気持ちを感じながら劇場を後にした。

 

コンサートマスター四方恭子。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの白井篤(NHK交響楽団第2ヴァイオリン次席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市室内管弦楽団奏者)、チェロの植木昭雄(フリーランス、第1回齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、ティンパニの近藤高顯(元新日本フィルハーモニー交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン7人、コントラバスが2人、ヴィオラとチェロ、オーボエ、ホルンが各1人参加した。(大田季子)

 

 




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